多汗症
日常生活の中で、「汗のせいで着たい服が着られない」「手汗で書類が濡れてしまう」といったお悩みを抱えていませんか?
汗をかくこと自体は、体温を一定に保つために人間にとって欠かせない大切な機能です。しかし、体温調節に必要な量を超えて、日常生活に支障が出るほど大量の汗をかいてしまう状態のことを、多汗症(たかんしょう)と呼びます。
多汗症は、汗かきな体質ではなく、適切な治療によって症状の改善を図ることができる疾患です。決して恥ずかしいことでも、我慢しなければならないことでもありません。まずは多汗症がどのような病気なのか、その症状や原因、治療法について解説します。
多汗症の症状について
多汗症の症状は、大きく分けると「全身に汗をかくタイプ(全身性多汗症)」と、「体の一部にだけ多くの汗をかくタイプ(局所性多汗症)」の2つに分類されます。特に若い世代から現役世代まで多くの方を悩ませているのは、体の一部に汗をかく「局所性多汗症」です。
具体的には、以下のような部位に症状が現れやすく、それぞれに特有の日常生活の困りごと(社会的苦痛)を引き起こします。
■ 手のひら(手掌多汗症:しゅしょうたかんしょう)
文字を書くときに紙がふやけたり、ペンが滑ったりする。
人と握手をするのをためらってしまう。
キーボードやマウスが汗で濡れてしまう。
■ 足の裏(足底多汗症:そくていたかんしょう)
靴下やストッキングが常に湿っていて、冷えや不快感がある。
靴の中が蒸れやすく、ニオイが気になったり、雑菌が繁殖して皮膚が荒れたり(水虫など)しやすい。
フローリングの上を歩くと足跡がついてしまう。
■ 脇の下(腋窩多汗症:えきかたかんしょう)
服の脇の部分に大きな汗ジミができてしまい、好きな色や素材の服を着られない。
冬場でも上着の脇が濡れてしまう。
汗そのものは無臭がほとんどで、衣服に付着して時間が経つとニオイの元になることがある。(腋臭症:えきしゅうしょう)
■ 頭や顔
緊張したときや食事のとき、顔からポタポタと汗が垂れてしまう。メイクがすぐに崩れてしまう。
これらの症状は、ご本人にとっては非常に深い悩みであり、勉強や仕事への集中力を低下させたり、対人関係に消極的になってしまったりするなど、「生活の質(QOL=Quality of Life)」に大きく影響を及ぼします。
多汗症の原因について
なぜ、必要以上に多くの汗をかいてしまうのでしょうか。多汗症は原因となる別の病気がないもの(原発性多汗症)と、他の病気や薬の副作用が原因であるもの(続発性多汗症)に分けられます。
原因がはっきりと分からないケース(原発性:げんぱつせい)
多くの患者様が悩まれている手のひらや脇の多汗症の多くは、実はこれといった明確な原因(特定の病気など)が見当たらない原発性多汗症です。
人間の体には、汗を出す命令を伝える交感神経(こうかんしんけい)という自律神経があります。自律神経とは、呼吸や体温など、自分の意志とは関係なく体の機能をコントロールしている神経のことです。この交感神経が、何らかの理由で過剰に働いてしまうことで、汗が出続けてしまうと考えられています。
また、緊張や不安といった精神的なストレス、あるいは遺伝的な要素(ご家族に同じような症状の方がいる)も関係していると言われていますが、詳しいメカニズムは現在も研究が進められています。
他の病気や原因があるケース(続発性:ぞくはつせい)
一方で、体質や神経の過剰な働きではなく、以下のような体内の変化や病気が原因で汗が増えている場合もあります。
ホルモンの変化・バランスの乱れ
更年期障害(女性ホルモンの減少によるほてり・発汗)や妊娠など
代謝の異常
甲状腺の病気(バセドウ病など)、糖尿病、肥満など
その他の病気
感染症による発熱、神経系の病気など
お薬の副作用
服用している解熱剤や精神科のお薬の一部など
急に全身に汗をかくようになった場合や、体重減少・動悸(胸がドキドキすること)など他の症状を伴う場合は、これらの原因が隠れている可能性があります。
多汗症の治療法
主な治療法には以下のようなものがあります。
■ 塗り薬(外用薬:がいようやく)
・塩化アルミニウム液(※保険外)
汗を出す管(汗腺:かんせん)にフタをすることで、汗を物理的に止めるお薬です。手や足、脇など幅広い部位に使用できます。
当院で取り扱いはD-tube(クリームタイプ)、D-powder(パウダータイプ。手足におすすめ)があります。各¥2200。
■抗コリン外用薬(保険適用)
近年、脇の多汗症や手の多汗症に対して、新しく健康保険が使える塗り薬が開発されました。汗を出せという神経の命令(アセチルコリンという物質)をブロックすることで、汗の量を直接減らします。毎日決まった回数を塗ることで、高い効果が期待できます。
残念ながら足には適応はありません。
手…アポハイドロローション
脇…エクロックゲル、ラピフォートワイプ
■ 飲み薬(保険適用)
抗コリン薬
全身の汗を抑えることを目的とした飲み薬です。全体的に汗を減らしたい場合に有効ですが、副作用として「口の渇き」「目の霞み」「便秘」などが現れることがあるため、医師と相談しながら慎重に量を調整します。
漢方薬
体質や汗のかき方に合わせて、体のバランスを整える漢方薬を処方することもあります。
■ 注射による治療(ボトックス注射 条件により保険適用)
神経の働きを一時的に弱めるお薬(ボツリヌス毒素)を、汗が気になる部分(主に脇の下)の皮膚に細い針で注射する治療法です。
1回の注射で約4ヶ月〜数ヶ月間にわたって汗を抑える効果が持続するため、特に汗が増える夏の前(春先など)に受ける方が多くいらっしゃいます。重症の腋窩多汗症(脇の多汗症)であれば、保険が適用されます。
※現時点で当院では保険のボトックス注射は取り扱っておりません。自費でのご案内になります。
■ イオントフォレーシス (保険適用)
主に手や足の多汗症に行われる治療です。水の入った容器に手足を浸し、そこに微弱な電流を流すことで、汗を出させる細胞の働きを一時的に弱めます。
定期的に通院して治療を重ねる必要があります。
※現時点で当院では取り扱っておりません。
■ 手術(胸部交感神経遮断術ETS 保険適用)
手のひらの重症な多汗症に対して検討される外科的な手術です。汗を出す命令を出している交感神経を一部切断します。
※現時点では宮崎県で行っている施設はないようです。
手の汗を止める効果は非常に高いですが、手術後に「手の汗が止まった代わりに、胸や背中、太ももなどの汗が増える」という「代償性発汗(だいしょうせいはっかん)」という現象が起こることがあるため、医師から十分な説明を受け、納得した上で選択する必要があります。
多汗症は、周りの人に相談しにくく、恥ずかしいと一人で抱え込んでしまいがちな病気です。多汗症は体質ではなく、疾患の一つです。現在では受けられる治療選択肢も広がってきています。汗の量をコントロールできるようになると、日常生活のストレスが大きく減り、好きな服を気にせず着たり、お仕事や勉強に集中できるようになり、本人にとってより生活しやすくなると思います。
「これって多汗症かな?」と少しでも気になったら、お気軽にご相談ください。最適な治療法を一緒に考えていきましょう。
